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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)6858号 判決 1991年9月27日

原告

佐藤肇

右訴訟代理人弁護士

角尾隆信

山口広

森井利和

被告

日本自動車運転士労働組合東京支部

右代表者執行委員長

金井仁

右訴訟代理人弁護士

四位直毅

渡邊良夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告が被告の権利停止を受けていない組合員としての地位を有することを確認する。

第二事案の概要

一  除名処分等(以下の事実は当事者間に争いがない。)

1  被告は、昭和三三年駐留軍離職労働者が中心となって結成された労働組合であり、また、労働大臣の許可を受けて、一般貨物、乗用車、タクシー、重機を含む自動車関係の運転士を各企業に供給派遣する事業を営む日本自動車運転士労働組合の東京支部である。

2  原告は、昭和三五年四月一二日被告に加入し、昭和四九年一〇月一〇日除名処分を受けたが、昭和五五年三月一四日右除名処分の効力を争った訴訟において和解が成立して、同年九月一日被告に再加入し、昭和五七年一〇月一〇日被告の副執行委員長に選任された。

3  被告の執行委員長金井仁(以下「金井委員長」という。)は、原告に対し、昭和五八年二月二五日、緊急処分として、「昭和五八年二月二五日午後四時一九分から執行権を含めて全面権利停止する。」という処分をした(以下「本件緊急処分」という。)。

4  被告の支部執行委員会が設置した統制部会は、昭和五八年三月二一日、原告を「(役職を含む)全面権利停止」処分に付し、次期大会に除名を提案する旨の答申をし、被告の支部委員会は、原告に対し、昭和五八年四月一七日、右統制部会の答申どおりとする旨の決定をした(以下「本件権利停止処分」という。)。

5  被告は、昭和五八年一〇月九日、第三二回定期大会において、右支部委員会による全面権利停止処分を承認し、原告を除名する旨決定した(以下「本件除名処分」という。)。

二  争点

本件の中心的争点は、本件統制処分の理由があるのか、本件統制処分が統制権を濫用したものなのか、本件統制処分に至る手続が被告の規約等の定めに違反しているのかであり、当事者の主張の要旨は以下のとおりである。

1  原告の主張の要旨

(一) 統制権の濫用

(1) 統制権の行使、特に除名処分は、労働組合員が制裁として組合の運営に参加する権利を奪われ、あるいは組合から排除されるものであり、組合員の生存権を脅かすものであるから、団結権保障の趣旨にしたがって、団結を維持し、組合の目的を達成するのに不可欠な限度を正当性評価の基準として慎重に行使されるべきである。したがって、その違反行為の重大性に比例して制裁を科すべきであり、その選択を誤った過酷な制裁は、社会通念上妥当性を欠くものとして権利濫用となる。特に除名処分は、統制違反行為が著しく反組合的であり、組合に甚大な損害を与えたとか、あるいはその違反者を除名しなければ到底組合の団結を維持することができないような場合でなければ、無効となる。

(2) ところで、本件は、原告から批判を受けた自運労大阪支部役員が三回にわたって原告に暴行を加え負傷させた事件をとらえて原告を除名処分にしたものであるが、本件統制処分の理由とされた原告の行為等は、労働組合の組織活動自体ではない日本自動車運転士労働組合東京支部交通事故労働災害防止共済会(以下「事故防共済会」という。)の行事の場で、しかも宴会の席上でのものであり、除名に値するものではなく、また、被告がその事件の詳細を明らかにしようとせず、刑事処分もないのに、被告が雇用保険の不正受給問題を追及する原告をうとましく思って、本件を口実に原告を被告から放逐しようとしてなしたものであり、更に、右事件は、原告が雇用保険の不正受給問題の対応について被告やその役員、他の支部の役員を批判したところ、理由もなく一方的に暴行を受けたものであり、到底除名処分には値しない。

(3) 以上のとおり、本件除名処分は、統制権を濫用したものであり、無効である。

(二) 本件緊急処分の手続違反

(1) 被告の統制規程二九条は、緊急処分につき、規約五八条抵触の事実が明白であり、さらにその行為が増大するおそれありと判断される場合、執行委員長は緊急に処分することができると定めている。

本件緊急処分時、問題とされた原告らの暴行事件について、どちらが先に暴行したのか、どちらに責任があるのか、原告に加害者的要素が強いのか被害者的要素が強いのかなどは明らかでなく、事実関係は明白ではなかった。

また、右事件は暴行事件であり、それ自体は終了しており、本件緊急処分時にその行為が増大するおそれがあったとは到底認められない。

(2) 被告の統制規程一九条は、制裁処分は有期とすると規定している。しかし、本件緊急処分は、期限を明示していない。

(三) 本件権利停止処分の手続違反

(1) 統制部会設置の違法

ア 被告の統制規程六条は、申立てを受けた機関が審議の結果、規約五八条各項のいずれかに該当すると認めたときは、その決議に基づき、統制部会を設置して、申立てに基づく事項を付託すると定めている。これによれば、統制部会は、統制の申立てがあった後に、統制案件ごとに設置される非常任の機関である。

支部執行委員長から支部執行委員会に対し統制の申立てがされたのが昭和五八年二月二五日であるが、右申立ての審議を行った統制部会の委員長及び部会員は同年一月二三日の支部委員会で選任されており、また、支部執行委員会は、支部委員会に対し、原告に対する統制処分の申立てをしたが、支部委員会において統制部会を設置しておらず、統制規程六条に違反する。

イ 統制規程一〇条は、当該統制事案に直接関係あるものは部会の構成に加わることはできないと定めている。支部執行委員会が設置した統制部会は、執行委員である春原光雅が構成員となっているが、仮に支部執行委員会によって設置された統制部会をもって支部委員会の設置すべき統制部会の代用とすることができるとすると、支部委員会に統制を申し立てたのが支部執行委員会であるから、支部執行委員会で設置されるべき統制部会の構成員としては春原は不適格である。このような事態が生じないよう、統制部会がその都度設置されることとなっているのであり、支部執行委員会によって設置された統制部会をもって支部委員会による統制部会の設置に代えることは、統制規程違反となる。

ウ 結局、本件権利停止処分は、統制規程に定める統制部会の設置がないままされたものであるから、無効である。

(2) 本件権利停止処分には期限の明示がなく、統制規程一九条に違反する。

(四) 本件除名処分の手続違反

(1) 統制部長は専門委員として支部委員会で選任されており、各分会から選任された者が一年間統制部員となる。

これは、統制規程六条に違反している。また、統制規程九条は、統制部会の構成は互選で決定すると定めているが、右規程に違反する。更に、統制規程九条は、統制部会の部員の選任の方法が民主的に行われることを定めているが、成田吉志及び原口哲夫が新たに大会で設置された統制部会に加わっているところ、右両名が部員となった経過が明かでなく、右定めに違反する。

(2) 本件除名を申し立てたのは支部委員会及び支部執行委員会であるが、統制申立てをした際の執行委員会には、統制部長である春原が出席し、また、支部委員会の議長である成田吉志が統制部員として参加し、統制処分をすることに賛成している。これらは、統制規程一〇条に違反する。

(3) 被告の規約によれば、代議員による大会の定足数は、代議員の過半数である(二二条)ところ、当時の代議員数は二一二名であるが、本件除名決議が行われたときには、代議員が八六名しかおらず、定足数に満たない。

(4) 被告の規約によれば、除名決議は、出席組合員又は代議員の過半数によることとされている(二四条)が、代議員で大会が構成される場合には、出席代議員の過半数ではなく、代議員総数の過半数を要する趣旨である。このことは、被告の大会議事規程三〇条に「裁決は規約に特別の定めがある場合のほか、代議員の過半数で決める。」とあることからも明らかである。

しかるに、本件除名に賛成した代議員は七三名であるから、代議員総数の過半数に満たない。

(5) 被告の大会議事規程三一条は、重要議案の裁決は原則として無記名投票とすると定めている。除名決議は重要議案であるから、右のとおり無記名投票で行うべきである。しかるに、大会では無記名投票によっていない。

(五) 弁明の機会を保障することは、規約の定めの有無にかかわらず、除名の効力要件である。加えて、被告の統制規程一二条には、「委員会は必ず当事者の意見を聴取しなければならない。申請人、被申請人、あるいは参考人が事情陳述を拒否し、またあらかじめ決められた期日までに出頭しない場合は権利の放棄とみなす。」と定めている。

原告は、本件除名処分以前において十分な弁明の機会を与えられず、大会当日統制部会には出席しておらず、大会においても具体的事実関係に関する発言を許されなかった。このように、原告は、弁明の機会を奪われており、本件除名処分は、この点でも無効である。

2  被告の主張の要旨

(一) 処分理由について

(1) 昭和五八年二月二一日、二二日に、栃木県塩谷郡藤原町大字大原一〇二一番地所在の鬼怒川グランドホテル(以下「ホテル」という。)において、第九回事故防共済会交流総会(以下「本件交流総会」ともいう。)が開催された。これには、被告の労働者供給先業者等が参加していた。

(2) 原告は、事故防共済会の副理事長として、二月二一日の交流総会の司会を担当することになっていたが、当日遅刻し、司会役を果たさなかった。また、当日総会終了後第二次交流会(夕食会)が行われたが、理事長が理事らに会場入り口付近の下座に席を取らせたのに、原告は一人離れた席にいて、オブザーバーらと約一時間話をし、その間業者の接待をしなかった。

(3) その後、ホテル内のクラブで任意参加による二次会が行われた。金井委員長がオブザーバーとして参加していた日本自動車運転士労働組合京都支部執行委員長松居順一郎、同大阪支部副委員長久保司(以下「久保副委員長」という。)及び同書記長高原邦幸(以下「高原書記長」という。)らと話をしていたところ、原告が来て、高原書記長に対し、「あんた大阪の役員だろう。役員でだらしねぇ、しっかりしなければ駄目じゃないか。」などと申し向け、高原書記長が反発してやり返すなどして、原告が高原書記長に、「書記長になるのはちょっと早すぎる。まだ若い。」などと言い、高原書記長が原告に食って掛かったりして怒鳴り合いに近くなり、更に、原告が高原書記長、久保副委員長に対し、「関西の暴力団か。」などと言った。高原書記長が原告に向かい席を立ちかけたとき、原告が椅子から落ちかけ、この後、原告は、金井委員長に対し、大阪の暴力団を雇っているのかと言い、また、高原書記長に対し、「この若僧の馬鹿野郎め、貴様ほど脳みその腐ったやつは知らん。ぼけ。」などと罵倒した。

(4) その後、ホテルの男子浴室に向かう廊下において、原告と高原書記長が激しく言い合い、原告は「お前みたいな若僧」などと言い、高原書記長は怒って原告に詰め寄ろうとしたが、久保副委員長とホテル従業員に制止された。原告は、一旦その場を行きかけてからまた立ち戻り、高原書記長に同様のことを言い、山影専務理事に対し「金井委員長を連れてきて謝らせろ。」などと言った。

(5) この後、原告と久保副委員長がクラブで話し合っていると、高原書記長が来たが、原告が高原書記長を挑発したので、同書記長が原告に近づいたところ、原告が手を出して久保副委員長にあたり、原告と高原書記長がもみ合いになった。その際、原告は、高原書記長の陰部をつかみ執拗に離さなかった。そのため、高原書記長は、全治一〇日を超える陰部創傷の傷害を受け、久保副委員長は、約五日間の安静加療を要する左膝挫創、左顔面打撲症の傷害を受け、原告も全治一週間を要する顔面打撲等の傷害を受けた。高原書記長は、応急措置のため救急車で運ばれ、治療を受けた。

(6) 原告の以上のような任務懈怠、言動、暴力行為と傷害などは、交流総会に参加した就労先企業はもとより、その他の就労先企業にも不安、警戒、不信、批判を惹起し、あるいは増大させ、「雇用の確保を期す」ことを定めた被告の綱領に反し、就労先企業での信頼を高めることにより組合員の就労先の確保、増大に貢献すべき被告副執行委員長としての任務に違背し、また、原告のこのような行為により被告組合員や自運労大阪支部との団結を阻害し、「自動車運転士の大同団結」を乱し、よって、綱領、規約に違反した(規約五八条一項)。

(7) 原告の右のような任務懈怠、言動及び暴行・傷害は、交流総会という就労先企業が多数参加している場で行われたこと、原告が事故防共済会副理事長兼被告副執行委員長の要職にあることから、被告の名誉を著しく汚したことは明らかである(規約五八条二項)。

(8) 原告の右のような行為により、事故防共済会員すなわち被告組合員の同共済会役員すなわち被告役員に対する不信、批判を招き、被告と自運労大阪支部との団結を阻害するなどし、被告の統制を乱した(規約五八条三項)。

(二) 緊急処分について

(1) 本件緊急処分が行われた時点において、原告の暴言及び傷害を負わせたこと、原告と高原書記長との傷害事件が発生したことなどは、被告組合員の就労先企業や被告役員、他支部役員ら本件交流総会出席者に広く知られていたことは明白であった。したがって、原告の右行為が被告の名誉を汚していること(規約五八条二項に抵触する行為)は明白であった。

原告は、二月二五日の支部執行委員会の二時間余に及ぶ議論を経ても、前記言動について反省を示さなかった。なお、被告が緊急に適切な措置を講じないときは、被告組合員の就労先業者、被告組合員、他支部などの間で被告に対する不信と不安が高まり、被告の名誉を汚す事態が更に増大するおそれもあった。このように、被告の名誉を汚す行為が増大するおそれがあった。

(2) 統制規程三〇条は、緊急処分後の措置として、直ちに統制規程により処理しなければならないと定め、他の各級機関に対する統制申立てとそこでの審議、決定などを不可欠のこととして予定している。したがって、本件緊急処分は、他の機関による統制案件の処理までという有期の処分である。

(三) 本件権利停止処分について

(1) 規約四八条は、書記局に統制部の部門を置くと定め、同四九条は、毎年統制部の部長及び部員が選任されて支部委員会の承認を受けると定めている。したがって、統制規程六条の定めは、統制の申立てがあった場合に、右のように選出・承認された統制部の構成員により統制部会を設置することを定めたものであり、本件では、右定めのとおり統制部会を設置している。

(2) 支部委員会は、支部執行委員会の統制申立てを受けた後統制部会を設置せず、右申立て前に支部執行委員会が設置した統制部会の答申に基づき本件権利停止処分を行った。

支部執行委員会に対する統制申立てと支部委員会に対する統制申立ては、同一案件であること、支部委員会が統制部会を設置するにしてもその構成員は、支部執行委員会の設置するそれと同一の構成となること、支部執行委員会により設置された統制部会は、統制規程七条の定めを誠実に履行して十分慎重に審議検討したうえ、公正な判断を下して報告答申したものであること、そのため、支部委員会が統制部会を設置しても右報告答申と同一のものであることが十分予測されたこと、支部執行委員会は、支部委員会に対し統制申立てをしたため、独自に統制処分を行わず、そのため、支部執行委員会の設置した統制部会の報告答申は、支部委員会の統制処分についてのみ用いられたものであること、以上の諸点によると、右手続に実質的な違法はない。

(3) 規約四九条は、専門部の部長は役員中より選出することとし、統制規程九条は、統制部会の構成員のなかに当該機関の役員を一名以上加えなければならないとする。被告の副執行委員長である春原は、右定めにより統制部長となり、統制部会の構成員となっていたのであり、また、統制規程九条ただし書に定める互選により統制部長に選出された。したがってまた、春原は、統制規程一〇条の当該統制案件に直接関係あるものには該当しないというべきである。

(4) 本件権利停止処分は、全面権利停止と次期大会除名提案であり、次期大会までの有期処分である。

(四) 本件除名処分について

(1) 統制部会設置について

ア 統制部の構成員が事前に選出・承認されることは規約に基づくものである。本件大会において、統制部会が設置され、統制案件が付託されて審議されたのであるから、原告主張の違法はない。

イ 春原が統制部会の部長として選出され、承認されたのは、規約に基づくものである。

ウ 成田吉志と原口哲夫が統制部会の構成員となったのは、大会の選任によるものである。

エ 春原統制部長及び成田支部委員会議長が大会で設置された統制部会の構成員として同部会の審議と決定に関与したのは、規約及び統制規程等の定めによるものである。

(2) 支部大会は、組合員、又は代議員の二分の一以上の出席がなければ成立しない(規約二二条)。これは、その文言からいって、会議を成立させて議事を開くに当たり充足することを求められる議事の定足数を定めているものである。本件大会は、代議員総数二一二名中一二〇名が出席しており、右の定足数を満たしている。

(3) 支部大会の決議は、一部の事項を除き出席組合員又は代議員の過半数による(規約二四条)。代議員による大会の場合、出席代議員の過半数によることとなる。大会議事規程三〇条は、裁決は規約に特別の定めがある場合のほか代議員の過半数で決める旨定めているが、これも出席代議員の過半数の意である。

そして、本件大会における原告を除名する旨の決議は、賛成七三名であり、出席代議員の過半数である。

(4) 大会議事規程三一条は、重要議案の採決は原則として無記名投票とすると定めている。ここにいう重要議案とは、規約に直接無記名投票とすることが定められている規約の変更、支部役員の選出、同盟罷業を指すものと解すべきであり、除名はこれに含まれない。

(5) 原告は、本件緊急処分、統制部会、支部委員会の本件権利停止処分、大会における本件除名処分のいずれにおいても弁訴(規約一二条の二、六〇条等)の機会を与えられた。

第三争点に対する判断

一  本件除名処分について

1  除名理由の存否について

被告は、昭和五八年二月二一日から二二日にかけての事故防共済会交流総会等での原告の任務懈怠、言動、暴力行為とこれによる傷害によって、被告組合員の就労先の信用を失墜させるなどし、被告副執行委員長としての任務に違背し、被告組合員や大阪支部との団結を阻害し、被告の名誉を汚し、被告の統制を乱したとして、被告の規約五八条一ないし三項に該当する制裁事由があると主張する。

(一) 被告の規約五八条は、組合員が綱領・規約及び決議に違反したとき(一項)、組合の名誉を汚したとき(二項)、組合の統制を乱したとき(三項)には、制裁を受けると規定し、同五九条は、制裁に戒告、権利停止、除名の三種類があると定めている(<証拠略>)。そこで、以下被告の主張する原告の言動等が右の制裁事由に該当するか否かについて検討する。

(二) まず、事故防共済会の性格についてみることとする。

(1) 被告は、労働大臣の許可を受けて組合員の就労を確保するための労働者供給事業を行っており、そのため、被告及びその組合員にとって、労働者の供給先の確保、増大を図ることが重要な課題とされている(当事者間に争いがない。)。ところで、被告組合員が就労稼動に際して交通事故を起こすことがあり、このような場合の就労先及び被告組合員の経済的損失を補填するために共済制度を作ることとなり、事故防共済会が設立された(<証拠略>)。

(2) 事故防共済会は、会員が業務上の交通事故によって生じた経済的問題を会員相互の共済で処理することを目的とし、その運営は、すべて被告の指導下に置かれる(事故防共済会規程二条)。事故防共済会の事業は、研修会、道路交通法等の講習会、被告から就労したときの事故に起因する会員の経済的負担の補填等である(同規程三条)。会員の資格は、被告組合員資格取得と同時に発生し、組合員資格の喪失又は脱退と同時に消滅する(同規程四条)。会費は、会員の就労先企業が拠出し(被告代表者尋問の結果)、会員の権利義務は被告規約に準じ(同規程六条)、事故防共済会を被告に設置し(同規程七条)、理事会の役員は、被告役員から機関の議を経て選任する(同規程一一条)。(<証拠略>)

(3) このような事故防共済会の設立の経緯、設立目的、事業内容、役員構成等を総合すると、事故防共済会は、被告とは別組織ではあるが、その実態は密接な関係にあると認めるのが相当である。

(4) 事故防共済会交流総会は、毎年一回開催され、共済財源の拠出者である被告組合員の就労先企業に対して事故防共済会の事業報告を行い、被告組合員の就労先企業との相互理解と交流親睦を図り、被告組合員の就労先の確保、増大を目的とするものである。

(三) 原告は、昭和五七年一〇月一〇日の被告定期大会で副執行委員長に選出され、昭和五八年一月二三日の被告支部委員会で事故防共済会副理事長に選任された(<証拠略>被告代表者、右認定に反する原告本人の供述は、右各証拠に照らし、採用することができない。)。

(四) 本件交流総会は、昭和五八年二月二一日から同二二日にかけて、鬼怒川グランドホテルにおいて、被告の組合員の就労先企業等が参加して行われたが、原告と春原副理事長のうちいずれかが当日の司会を担当することになっていた(被告代表者、原告本人、なお、右日時場所で本件交流総会が行われたことは当事者間に争いがない。)。

しかし、春原副理事長は当日朝欠席すると連絡し、また、原告は当日遅刻し、司会を担当しなかった(<人証略>)。原告は、春原副理事長が欠席することを事前に知っていた(<証拠略>、右認定に反する原告本人の供述は、右各証拠に照らし採用することができない。)。

(五)(1) 同年二月二一日の交流総会終了後第二次交流会(夕食会)が行われ、更にその後ホテル内のクラブで、本件交流総会の参加者の多くが参加して二次会が行われた(原告本人、被告代表者)。

(2) 原告もこの二次会に参加したが、午後一〇時すぎころ、金井委員長やオブザーバーとして本件交流総会に出席していた日本自動車運転士労働組合大阪支部の久保副委員長、同高原書記長らがいる席に行った。金井委員長らは、話をしていたが、原告はこれに割り込み、金井委員長に対し、被告に関する雇用保険の不正受給問題について早急に対策を講じるべきであると話をしたところ、高原書記長がこれに口を差し挟み、そのため、原告と高原書記長が口論となった。原告は、かつて大阪支部でも同様に雇用保険の不正受給問題があったことから、高原書記長に対して、「大阪の役員でだらしがない。しっかりしなければ駄目じゃないか。」「書記長になるのはちょっと早すぎる。」等と言い、これに対し、高原書記長が激昂して食ってかかったりして怒鳴りあいのような状態になった。更に、原告は、高原書記長に対し、「関西の暴力団か。」という趣旨のことを申し向け、激昂した高原書記長が原告の側に行って殴りかかろうとしたところ、これを避けようとした原告は、座っていた椅子ごと倒れた。そして、原告は、金井委員長に対しても、高原書記長のことについて関西の暴力団を雇っているのかという趣旨の発言をした。この場は、間に人が入り一旦はおさまり、原告は、クラブを出ていった。(原告本人、被告代表者、弁論の全趣旨、なお、原告本人及び被告代表者は、右認定に反する供述をするが、いずれも採用することはできない。)

(3) その後、高原書記長は、原告を抱きかかえるようにしてホテル内の男性用の浴場に向かう廊下へ連れて行き、その場で、原告と口論となった。原告は、高原書記長に対して「おまえみたいな若僧」等と言い、高原書記長が怒って原告に詰め寄ろうとしたが、ホテルの従業員、久保副委員長や被告の山影瀧男書記長らが間に入って、その場の騒ぎを鎮めた。高原書記長は、悔し涙を流すほどであった。(原告本人、証人山影瀧男、なお、原告本人は、久保副委員長にも腕を抱えられたと供述するが、右認定のとおり久保副委員長は高原書記長を制止しようとしたのであるから、原告の右供述部分は採用し難い。)

(4) 原告は、その後、再びクラブへ行き、久保副委員長と高原書記長の暴行の件について話をしていたが、そこに高原書記長が入って来て、原告に殴りかかった。高原書記長は、原告の顔面を相当回数殴打するなどし、これに対して、原告は、高原書記長の陰部を強くつかむなどした。この結果、原告は全治約一週間を要する見込みの顔面打撲等の、高原書記長は加療約一〇日間の陰部挫創の、久保副委員長は約五日間の安静加療を要する左膝挫創等の各傷害を負い、特に高原書記長は、出血がひどく、当日救急車を手配して、病院で治療を受けたが、数針縫う陰部挫創の傷害を受けた。(<証拠略>、なお、高原書記長の怪我の状態及び程度からすると、原告の右暴行は、単に高原書記長の暴行を避けたい一心で目の前にあった高原書記長の身体の一部をつかんだものとは認められず、これに反する原告本人の供述は採用し難い。)

(5) 右事件は、被告関係者のみならず本件交流総会に招待され出席していた被告組合員の就労先にも二月二二日のうちに知れわたり、帰途話題にもなった(<人証略>)。

また、被告組合員の就労先では、前記の事件の結果、「右のような事件が高じると、被告組合員を雇用することができなくなる」等、被告組合員の雇用に不安、不信を訴えるところもあった(<人証略>)。なお、証人濱本徳夫は、原告の本件言動による被告組合員の雇用への影響はない旨供述するが、右認定の事実を左右する内容ではない。

(六) 原告の以上の行為が被告の規約五八条に定める制裁事由に該当するか。

(1) 被告の綱領には、「我等は自動車運転士の大同団結を図り、以て雇用の確保と生活信条の向上と共同の福利の増進を期す。」と定められている(<証拠略>)。前記(五)の事件により本件交流総会に参加していた被告組合員の就労先企業等に不安、不信を生じさせ、前記認定のように被告組合員の雇用にも影響しかねない状況が作り出された。これは、右綱領に定める雇用の確保を期すことに反するものである。

また、原告の前記(五)の言動等が被告組合員の就労先の確保・増大をも目的とする交流総会の機会に行われ、右就労先等にも知れわたったこと、原告が被告の副執行委員長という要職にあったことから、右暴行、傷害事件は、被告の名誉を汚すものであると認められる。

(2) 原告の右言動等は、被告とは別組織の事故防共済会の主催する交流総会後の懇親会(二次会)の席上あるいはその後に行われたものであるが、前記認定のとおり被告と事故防共済会とは密接な関係にあること、原告は被告の副委員長と事故防共済会の副理事長を兼務し要職にあったこと、交流総会が被告組合員の就労先多数が参加して行われ、就労先の確保・増大をも目的とするものであること、原告の言動が交流総会のために招いた被告組合員の就労先の関係者もいる前で行われ、あるいはこれらの者が宿泊していたホテルで行われ、間もなくこれらのものに知れわたったこと、原告の言動は相手を誹謗し、挑発する内容であり、暴行事件の誘因となったと認められること、原告がこれらの言動等を避けることは可能であったと認められること、原告の暴行と相手の怪我の程度などを総合して考えると、右暴行、傷害事件について原告にも責任があり、被告組合員の就労先に不安等を生じさせ、あるいは、被告の名誉を汚した責任は原告にもあると認めるのが相当である。

したがって、原告の言動、暴行・傷害は、雇用の確保を期すとの被告の綱領に違反するものであり、また、被告の副執行委員長としての任務に背くものと認められるから、被告の規約五八条一項に該当し、更に、被告の名誉を汚す行為をしたものと認められるから、同規約五八条二項に該当すると認めるのが相当である。

(3) 以上によれば、原告には少なくとも規約五八条一項及び二項の制裁事由が認められる。なお、被告は、原告が本件交流総会の司会を担当しなかったことなどをも処分の理由として主張するが、右は、軽微な任務懈怠であるから、これをもって除名事由に該当すると認めるのは相当でない。

(七) 統制権の濫用について

(1) 原告は、原告の行為等が労働組合の組織活動自体ではない場で行われたものであるから除名に値せず、また、被告が本件の詳細を明らかにせず、刑事事件でも不起訴とされているにもかかわらず、被告が雇用保険の不正受給問題を追及する原告をうとましく思い、本件を口実として被告から放逐しようとしたものであり、更に、原告が被告やその役員、他支部の役員を批判したところ一方的に暴行を受けたものであり、到底除名処分に値しないから、統制権の濫用に当たると主張する。

(2) しかし、原告が被告の副執行委員長という重要な地位にあったこと、本件での暴行が主として高原書記長によって行われたものであるにしても、原告の前記認定のような言動がその誘因となったことが認められ、かつ、その言動は、論議や高原書記長らに対する批判の範囲を越え、同書記長を誹謗し、挑発するような内容であること、被告組合員の就労先が参加している交流総会に引き続く懇親会の席であることや右就労先の関係者が同席していることなどのその場の状況を考慮すれば、被告の役員である原告は右のような言動を慎み、かつ、高原書記長の暴行の発生を避けるべきであり、避けることが可能であったと認められることからすると、原告に本件暴行、傷害事件発生の責任の一端があること、本件の原告の言動や原告らの暴行、傷害が被告組合員の就労先の確保・増大をも目的とし、右就労先を招いて行われた本件交流総会の機会に、右就労先の面前で行われたこと、その結果被告組合員の就労先に被告組合員を雇用することに対する不安、不信を生じさせたこと、原告の暴行及び相手方の傷害の程度などを総合して考えると、前記(五)の原告の言動等を理由として原告を最も重い制裁である除名処分にすることに一応の理由があると認めるのが相当であり、本件除名処分が社会通念に照らし著しく合理性、妥当性を欠くと認めることはできない。そして、除名処分は、労働組合としてその統制権に基づいて行うものであるから、原告が刑事事件で不起訴となったことをもって、統制権の濫用に当たるということはできず、また、前記のとおり原告が高原書記長に対し暴行し怪我を負わせたことのみが問題とされているのではないから、これに反する原告の主張は理由がない。

(3) また、被告について雇用保険の不正受給問題が指摘され、原告もこの問題に対する適切な対応をすべきであると主張していたことが認められるが(原告本人)、仮に被告が右不正受給問題に対し積極的に対応しようとしていなかったとしても、そのことから本件除名処分がこのような原告の態度をうとましく思って、原告を被告から放逐しようとしたものと推認することはできず、他に原告の前記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

(4) 以上のように、統制権を濫用したとの原告の主張は理由がない。

(八) 以上認定したところによれば、原告には被告の規約に定める制裁事由があり、これによって除名処分にしたことに統制権の濫用は認められない。

2  除名手続について

(一) 本件除名処分に至る経過

支部委員会及び執行委員長は、昭和五八年九月三〇日付けで第三二回定期大会宛に原告の除名を求める統制申立てをした(<証拠略>)。同年一〇月九日の第三二回被告定期大会は、代議員が出席して行われたが、午前一〇時一〇分に総代議員数二一二名中一二〇名が出席し、その成立が宣言された(<証拠略>)。右大会において、右除名提案が行われ、直ちに統制部会の招集が承認され、同部会が設置されて右の統制案件が付託された(<証拠略>)。統制部会は、これを審議し、原告を除名するのを相当と認めて、大会に報告答申した(<証拠略>)。右大会において、原告の除名案件が採決され、賛成七三名、反対三名、保留一〇名であった(<証拠略>)。

(二) 統制部会の設置について

(1) 被告の統制規程六条は、「前条の申立に基づき、その申立を受けた機関は審議の結果、規約第五八条各項いずれかに該当すると認められたときは、その決議に基づき、統制部会を設置して、申立に基づく事項を附託する。」と定めている。この統制部会は、統制案件の申立ての都度設置されるものである。また、統制規程九条は、「部会の構成員数は、設置する各級機関で定め、その選任の方法は民主的に行わなければならない。ただしその構成員の中に、当該機関の役員を一名以上加えなければならない。またその構成は互選で決定する。」旨規定している。(<証拠略>)

(2) 被告の規約四八条及び四九条によると、支部執行委員会の下に置かれる書記局に統制部が置かれ、その部長は役員の中から、部員は組合員の中から選出し、支部委員会で承認を得るとされている(<証拠略>)。したがって、統制部長及び統制部員は、予め決定されていることになる。このような規約の定めと規約に基づいて定められている統制規程を総合すると、統制の申立てを受けた機関がその都度統制部員を選任する必要はなく、当該機関が統制部会の設置を決議し、予め選出・承認されている統制部長及び統制部員がその構成員となることは、規約や統制規程に違反するということはできない。

(3) 本件大会において、統制の申立てに基づき、統制部会の開催が承認され、各分会から選出されている統制部員及び執行委員であり統制部長である春原が統制部会を構成した(<証拠略>)。この点は、(2)で説示したとおり被告の規約及び統制規程に違反するものではない。また、原告が指摘する成田吉志及び原口哲夫は、分会から選出された統制部員として、右大会で設置が承認された統制部会の部員となった(<証拠略>)。したがって、統制部会の構成について、原告主張の規約、統制規程に違反するということはできない。

(4) 被告の統制規程一〇条は、当該統制事案に直接関係あるものは部会の構成に加わることができないと定めている(当事者間に争いがない。)。統制申立てをした者は、右規定に該当すると解されるが、統制申立てをした機関の構成員は、直ちに右規定にいう当該統制事案に直接関係あるものに該当すると解することは相当でなく、たとえその者が統制申立てに賛成し、あるいは統制部会で統制に賛成したことがあるからといって、右規定に違反するということはできない。したがって、春原部長及び成田吉志が大会で設置された統制部会の部会長及び部員となったことが統制規定に違反するとの原告の主張は、採用することができない。

(三) 定足数について

(1) 被告の規約二二条は、(支部大会の成立)として、「支部大会は組合員、又は代議員の二分の一以上の出席がなければ成立しない。」と定めている(<証拠略>)。右は、その文言等からして、大会を成立させて議事を開くに当たり充足することを要する趣旨であると認められ、議決に当たり右数の出席を要すると認めることはできない。また、議決のための定足数を定めた規定があることを認めるに足りる証拠はない。そして、大会成立のための定足数は、議決のための定足数とは異なるものであり、一旦大会が成立のための定足数を満たし、有効に成立した後に右定足数を欠くに至ったとしても、大会の成否が左右されるものではない。これに反する原告の主張は、理由がない。

(2) 前記認定のとおり、本件大会は、総代議員二一二名中一二〇名が出席しており、規約二二条に定める定足数を満たした。したがって、本件除名決議の際に右定足数を欠いていたとしても、本件大会の成否が左右されるものではなく、本件除名決議の有効要件を欠くということはできない。

(四) 決議について

(1) 被告の規約二四条は、(議決)として、支部大会の議決は一・四・八項(規約二三条一・四・八項の意味である。)を除き出席組合員又は代議員の過半数によると定め、被告の大会議事規程三〇条は、採決は規約に特別の定めがある場合のほか、代議員の過半数で決めると定めている。規約二三条一項は、規約の変更であり、組合員の直接無記名投票による過半数の支持を必要とし(規約六四条)、同四項は、支部役員の選出であり、分会担当執行委員を除き全組合員の直接無記名投票により、分会担当執行委員は分会組合員の直接無記名投票によることとされ(規約四四条)、同八項は、同盟罷業であり、組合員の直接無記名投票の過半数によると定めている(規約六二条)。(規約二四条及び大会議事規程三〇条の内容は当事者間に争いがなく、その他の規約の内容は、<証拠略>による。)

規約二四条の決議要件について、原告は、代議員により構成される大会の場合代議員総数の過半数を要すると主張し、被告は、出席代議員の過半数で足りると主張する。

被告の規約二三条によると、支部大会の決議事項は、規約の変更、運動方針、予算及び決算、支部役員の選出、労働協約の締結及び破棄、事業報告、団体への加入又は脱退、同盟罷業、職業的に資格のある会計監査人の委嘱、その他重要な事項であり(<証拠略>)、このうち規約の変更、支部役員の選出及び同盟罷業については前記のとおり特別の定めがある。ところで、規約二四条及び大会議事規程三〇条を併せてその文言をみると、決議には代議員総数の過半数を要するかのようであるが、他方、前記のとおり大会成立のための定足数は、代議員の場合その二分の一以上であり、決議に代議員の過半数を要するとすると、特別の定めのない決議事項については、定足数を満たしても可決されない事態もありうることになり、規約の趣旨に必ずしもそぐわないものと認められ、また、規約二四条及び大会議事規程三〇条は、組合員の除名の決議に限らず大会の決議事項一般に関する規定であるところ、このような決議事項につき常に代議員の過半数の賛成を要すると解するのは、一般に合理的とは認められない。したがって、規約全体の趣旨を勘案すると、規約二四条及び大会議事規程三〇条は、出席代議員の過半数で足りる趣旨であると解するのが相当であり、これに反する原告の主張は、採用の限りでない。

(2) 本件大会において、原告の除名案件に賛成した代議員は、前記認定のとおり出席代議員一二〇名の過半数である七三名であるから、議決の要件を満たしている。

(五) 採決方法について

(1) 被告の大会議事規程三一条は、重要議案の採決は原則として無記名投票とすると定めている(当事者間に争いがない。)。右規程の趣旨は、被告にとって重要な議案、例えば組合の主要な財産の処分などについては、代議員等の自由な意思決定を確保することにあると認められる。しかし、右大会議事規程は、「重要議案」が何を指すものであるかを明らかにしていない。規約二三条一〇項は、大会の決議事項として、その他重要な事項と規定するが、決議事項である「重要な事項」と「重要議案」が同一であると認めることはできない。

また、組合員の除名処分はその権利に重大な影響を及ぼすものであるが、そのことから直ちに除名の決議が被告にとって重要な議案であるということはできず、大会議事規程三一条にいう「重要議案」に当たると解することもできない。なお、除名決議について、無記名投票によることが好ましいということはできるが、民主的に形成された多数意思を確認するに足りる方法であればよく、必ず無記名投票によるべきであると解することはできない。

このように、除名決議が大会議事規程三一条にいう「重要議案」に当たるということはできない。

(2) したがって、本件除名決議が無記名投票の方法によっていないことは、大会議事規程に違反するものではない。

(六) 弁明について

(1) 被告の規約一二条二項によれば、組合員は制裁処分に対する弁訴の権利を有し、また、統制規程一二条によると、委員会(統制部会のことである。)は必ず当事者の意見を聴取しなければならず、被申請人が事情陳述を拒否し、また予め決められた期日までに出頭しない場合は権利の放棄とみなすと定められている(<証拠略>)。

原告には、本件大会で設置された統制部会への出席の案内をしたが、原告は、統制部会には出席していない(<証拠略>)。したがって、被告の統制規程一二条に違反していると認めることはできない。

(2) 原告は、本件大会に出席し、弁明の機会を与えられた(<証拠略>なお、原告本人は、具体的な事実関係について発言することができなかったと供述するが、重複する発言を禁止されたというにすぎず、弁明の機会がなかったということはできない。)。

(七) 以上によれば、本件除名処分を無効とするような手続上の瑕疵はない。

二  以上の次第で、原告に対する本件除名処分は有効であるから、原告は本件除名処分によって被告の組合員としての地位を失った。したがって、原告が被告の組合員であることを前提とする本訴請求は、本件緊急処分及び本件権利停止処分の効力について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内民生)

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